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血糖・血圧・脂質に対する厳格な統合的治療の効果
2型糖尿病における新たなエビデンス

2017年9月15日

国立大学法人 東京大学
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター

発表者

  • 門脇 孝(東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 教授)
  • 植木 浩二郎(国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター センター長)

発表のポイント

  • 大血管合併症のハイリスクである2型糖尿病に対して、従来のガイドラインよりも厳格な多因子介入を行なうことで、主要評価項目(心筋梗塞・冠動脈血行再建術・脳卒中・脳血管血行再建術・死亡)の発症が、統計学的に有意でなかったものの抑制され、危険因子で補正すると有意に抑制されました。また事後解析により、脳血管イベント(脳卒中・脳血管血行再建術)に対する抑制効果が明らかになりました。
  • 血糖・血圧・脂質に対して、従来のガイドラインよりも厳格な目標に向けた統合的な治療を行なうことで、血管合併症を更に減らせることが、初めて示されました。
  • 本成果により、今後の国内外の糖尿病診療ガイドラインにおいて、治療の目標値をより厳格に設定する方向で、見直しが進む可能性があります。また介入終了後5年間の追跡研究が進行中で、今後長期的な治療効果も明らかになるものと期待されます。

発表概要

様々な血管合併症を引き起こす2型糖尿病は大きな社会問題となっていますが、どのような治療が合併症予防に有効なのかは、これまで十分に分かっていませんでした。このたび東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 門脇 孝教授、国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター 植木 浩二郎センター長らのグループは、2006年に厚生労働省の戦略研究の一環として開始された臨床試験J-DOIT3の主な解析結果を発表しました。

この試験では全国81施設で2型糖尿病の2542例が参加し、ガイドラインに沿った治療を受ける従来療法群か、血糖値・血圧・脂質に対してより厳格な統合的治療を受ける強化療法群に割り付けられました。平均8.5年の治療により、強化療法は主要評価項目(心筋梗塞・冠動脈血行再建術・脳卒中・脳血管血行再建術・死亡)を、統計学的に有意ではなかったものの19%抑制し、登録時の喫煙情報などの危険因子で補正すると24%有意に抑制していました。このうち脳血管イベント(脳卒中・脳血管血行再建術)を58%有意に抑制したことが事後解析で分かり、その他腎イベント(腎症の発症・進展)も32%有意に減っていました。

以上の結果により、今後の国内外の糖尿病診療ガイドラインの治療の目標値について、より厳格な方向で見直しが進む可能性があります。なお本研究は厚生労働省の戦略研究、並びに指定研究の一環として行われました。その成果は日本時間2017年9月15日午後7時から、ポルトガル・リスボンで開催される欧州糖尿病学会で発表され、また英国科学雑誌Lancet Diabetes & Endocrinology誌に掲載予定です。

発表内容

研究背景

生活習慣の変化を背景として増加している2型糖尿病は、心筋梗塞や脳梗塞といった大血管症や、慢性腎不全などの細小血管症といった様々な血管合併症を引き起こすことから、我が国においても大きな社会問題となっています。しかしながら、どのような治療がそのような合併症予防に有効なのかは、これまで十分に分かっていませんでした。特に血糖に加えて、血圧や脂質も含めた統合的な治療をより厳格に行なうことが、実際に合併症を減らすことにつながるのかについては、明らかになっていませんでした。

研究内容

このような背景を踏まえ、糖尿病の大血管合併症を30%抑制する介入方法の検証を目標とし、厚生労働省の戦略研究の一環として2006年に開始となった臨床試験が、J-DOIT3(2型糖尿病患者を対象とした血管合併症抑制のための強化療法と従来治療とのランダム化比較試験)です。この研究は、東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 門脇孝教授が研究リーダーとなり、研究事務局長の国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター 植木浩二郎センター長らと共に進めてきました。

具体的には、全国81施設において、大血管症のハイリスクである2型糖尿病症例2542例が登録され、2016年3月まで介入が継続されました。平均8.5年間という長期に渡る介入期間中に、強化療法群では血糖・血圧・脂質に対して多因子介入を行ない、より厳格な目標(HbA1c 6.2%未満、血圧120/75mmHg未満、LDL-コレステロール80mg/dL〔冠動脈心疾患の既往がない場合〕など)の達成を目指し、治療の段階的強化が行なわれました。一方で従来治療群では、現行のガイドラインに沿った治療が行なわれました。

実際の治療状況としては、強化療法群と従来治療群の平均HbA1cは6.8%、及び7.2%、平均血圧は123/71mmHg、及び129/74mmHg、平均LDL-コレステロールは85mg/dL、及び104mg/dLでした。糖尿病の治療では体重増加がしばしば問題となりますが、両群とも体格指数は概ね横ばいでした。この度明らかとなった主な解析結果として(図1)、強化療法は介入期間中の主要評価項目(心筋梗塞・冠動脈血行再建術・脳卒中・脳血管血行再建術・死亡)の発症を、統計学的に有意ではなかったものの、19%抑制しました。登録時の喫煙情報などの危険因子での補正を行なうと、発症は24%抑制されており、これは有意な結果でした。加えて事後解析を行なったところ、総死亡、及び冠動脈イベント(心筋梗塞・冠動脈血行再建術)には有意な差はありませんでしたが、脳血管イベント(脳卒中・脳血管血行再建術)に関しては、強化療法が58%有意に抑制していました。また副次評価項目のうち、腎イベント(腎症の発症・進展)の発症については、強化療法によって32%の有意な抑制が示されました。眼イベント(網膜症の発症・進展)についても、14%の有意な抑制が見られましたが、下肢血管イベント(下肢の切断・血行再建術)については有意な差は認めませんでした。

糖尿病症例の死因は、特に欧米では大血管症が多いと言われていますが、本研究の強化療法群では、心筋梗塞や脳梗塞での死亡は1件もありませんでした。なおこれらのイベントの発症率は、我が国で10年以上前に行なわれた同様の臨床試験の結果と比較しても低下していました。このことは現行のガイドラインに沿った治療でも、2型糖尿病の合併症を抑制できることを示していますが、更に厳格かつ統合的な治療を行なうことで、合併症の発症を更に抑えることができるものと考えられます。安全性については、強化療法群で低血糖の件数自体は多かったものの、第三者の助けや入院を要するような重篤な低血糖は、強化療法群においても発症率が年0.1%以下とごく低率でした。

社会的意義

以上より、2型糖尿病に対するより厳格かつ安全な多因子介入により、大血管症や死亡から成る主要評価項目について、危険因子での補正後の発症率が、有意に低下することが明らかとなりました。中でも脳血管イベントが有意に抑制されることが示され、また細小血管症についても特に腎イベントの発症が減っていました。現在国内外で様々な糖尿病診療ガイドラインが発表され、治療の目標値が定められていますが、本研究の結果が明らかとなったことで、より厳格な治療を目指す方向で、見直しが進む可能性があります。また介入期間自体は終了しましたが、介入研究への参加者のうち、同意の得られた方を対象に、その後更に5年間の追跡研究が、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業において現在進行中です。これにより、厳格かつ統合的な治療の合併症に対する長期的な効果も明らかになるものと期待されます。

発表学会および雑誌

学会名

第53回欧州糖尿病学会(EASD)、ポルトガル・リスボンにて開催

発表日時

現地時間9月15日(金曜日)午前11時~12時

参考URL

https://www.easd.org/

雑誌名

Lancet Diabetes & Endocrinology (in press)

論文タイトル

Effect of Intensified Multifactorial Intervention on Cardiovascular Outcomes and Mortality in Patients with Type 2 Diabetes in J-DOIT3, a Multicenter, Randomized, Parallel-Group Trial

著者

Kohjiro Ueki, Takayoshi Sasako, Yukiko Okazaki, Masayuki Kato, Sumie Okahata, Hisayuki Katsuyama, Mikiko Haraguchi, Ai Morita, Ken Ohashi, Kazuo Hara, Atsushi Morise, Kazuo Izumi, Naoki Ishizuka, Yasuo Ohashi, Mitsuhiko Noda, Takashi Kadowaki, and the J-DOIT3 Study Group (責任著者)

問い合わせ先

研究内容に関するお問合せ先

東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科
教授 門脇 孝(かどわき たかし)
電話:03-5800-8815(直通)
FAX:03-5800-9797
E-mail:kadowaki-3im@h.u-tokyo.ac.jp

国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター
センター長 植木 浩二郎(うえき こうじろう)
電話:03-3202-7181(内線2876)
FAX:03-3207-7364
E-mail:uekik@ri.ncgm.go.jp

当該領域の戦略研究に関する連絡先

厚生労働省健康局健康課(担当:栗本、長久)
電話:03-5253-1111(代表)

添付資料

図1  J-DOIT3における従来治療群に対する強化療法群のイベント発症率
(欧州糖尿病学会における発表より改変)

J-DOIT3における従来治療群に対する強化療法群のイベント発症率

取材に関するお問合せ先

国立国際医療研究センター 企画戦略局 広報企画室
広報係長:三山 剛史(みやま つよし)
電話:03-5273-5258(直通) <9:00~17:00>
E-mail:tmiyama@hosp.ncgm.go.jp